中央銀行が発行する法定デジタル通貨が世界で話題になっている。紙幣や硬貨でないデジタル通貨を、中銀が政府の信用力を基に発行する、というアイデアだ。

本サイトでもすでにご紹介しているように、世界各国がデジタル通貨構想の実現に向けて動きだしています。ベネズエラ「ペトロ」、ロシア「クリプトルーブル」、スウェーデン「Eクローナ」など、実用化されたものもあれば、実験や開発段階のものもあります。

また、仮想通貨でないにしても、スウェーデンと中国ではすでに電子決済が主流となっています。
スウェーデンの現金決済率はわずか2%です。

日本はどうでしょうか?

現金決済を前提にしている日本の銀行の基幹システムは、セキュリティ能力は高く、安定しているが、迅速な開発には向いていない。日々変動する環境変化に対する適応力が低く、時代遅れのシステムといえる。

▼だからといって、じゃあ独自仮想通貨構想が向かないかというとそうではなく、▼

三菱UFJフィナンシャル・グループは独自の仮想通貨「MUFGコイン」の開発を進めており、みずほフィナンシャルグループもゆうちょ銀行や地銀などと連携して「Jコイン」の発行を目指している。
技術的には実用化できるレベルまで進んでおり、私は2018年中に実用化されるのではないかと見ている。
日銀黒田総裁「不断の努力が必要」

日銀黒田総裁「不断の努力が必要」

なお、このような流れを日銀も受け止めています。
それどころか、すでに20年間、通貨のデジタル化については研究しているとさえ言われています。
日銀のフィンテックセンター長曰く「技術的に可能」なのだとか。

黒田総裁は通貨のデジタル化については次のように述べています▼

「将来的に新しい技術を自らのインフラ改善に役立てていく余地がないのか、不断の研究を重ねていくことが求められる」

日本の独自仮想通貨の実用化への課題とは

ただし、課題が何もないわけではありません。
独自仮想通貨の発行であっても、「デジタル」「新技術」だからこその問題もあります。

それはすでにデジタル政府化したエストニアや電子決済が主流の中国やスウェーデンに学ぶことができます。

課題①コストの問題

なんといっても「コスト」の問題があります。
確かに紙幣の発行にも印刷や原材料のコストがかかります。

デジタル通貨ならそれを省略できるしコスト削減につながると言われていますが。。。それは本当でしょうか?
独自仮想通貨での議論で焦点があてられるコストとなるともっぱら「決済コスト」です。

そのメンテナンスや維持管理など周辺環境にかかるコストについてまで言及されていません。

▼電子行政、電子政府を実現したエストニアでは次のような問題が発生しています▼

州情報システムの開発と維持には、今年の州予算から1億3500万ユーロが必要です。これは予算の1.31%を占め、私たちが国防に費やす予算よりはるかに少ない。

Development and maintenance of state information systems takes €135 million from this year’s state budget. That makes up 1.31 percent of the budget – much less than we spend on national defense.

すべての省庁が今後4年間のIT予算の必要性を伝えたこの冬、恐るべき事態が明確になりました。現在の資金調達額は、必要とされる金額より約2億4000万ユーロ少ないことが判明したのです。

The stark realization started manifesting this winter, when all ministries communicated their IT budget needs for the next four years. It turned out that current funding falls some €240 million short of what would be needed.

つまり、エストニアのe-stateに予算が不足しているということです。今後4年間の年間IT予算は、現在1億3500万ユーロとなっています。省庁は、何年も前に置き換えられたはずのシステムに対する重要な更新のために、さらに年に6千万ユーロを追加しなくてはなりあmせん。

That is the sum the Estonian e-state is missing. The annual IT budget for the next four years is currently that same €135 million. Ministries need an additional €60 million a year for critical updates to systems that should have been replaced years ago.

「目にみえるコストだけ」を意図的に議論し、導入を決めたとしても、その後実はさらにコストがかさみました…となっては本末転倒です。
かつ、日本は1200兆円超の累積債務を抱える国。
社会保障だけでもコストがかさんでいるのに、さらにコストをかかえては、財政破たんを招きかねません。

課題②安全性

次に問題になるのは「安全性」です。
確かにブロックチェーンの強みは、暗号化した署名をもちいることにより「なりすまし」などの不正が起きないことにあります。データ改ざん等を行うことはできません。

さらに、アタックなどによりシステムダウンが起きてもそこでの記録が消失することはありません。

ただし、DDOS攻撃などにより、機能停止させられる可能性は否めません。

▼過去の取引所への攻撃事例▼

課題③個人情報の保護

さらに気になるのは「個人情報の保護」です。

匿名性の高い仮想通貨ではありますが、探れば情報はいくらでも出てきます。
誰が何に決済をしたのか、どこで使ったのか、どこに送金したのか…。

マイナンバーによって個人情報が行政機関や金融機関に紐づけされるシステムはすでに始まっていますが、独自仮想通貨の脅威はそれ以上です。

もっというと、、、それが「行政機関」にいる「ある人間の恣意」によって悪用されないとは誰も保証できません。

独自仮想通貨の活用は「マネーロンダリング対策に有効」とされています。
それも本当でしょうか?

犯罪などアンダーグラウンドな勢力は、「今までの手法が使えなくなりました、じゃあ犯罪止めます」というほど単純なものではありません。

もっと「バレにくい」「目につきにくい」方法を探します。

だからこそ、現時点でもすでに「ダークウェブ」「匿名性の高い仮想通貨」が犯罪で使われているわけです。

独自仮想通貨ですべての情報が紐づけになったら…さらに闇に潜る可能性が高くなります。

まとめ

まとめ

フィジカルな通貨からデジタル通貨へ___。

これは一時的なものではなく「歴史的な転換点」であると言えます。

ただ、それを理由にして、デジタル化へ急ぐのは短慮なのかもしれません。

新技術を導入したいあまりに、現実的な計算や配慮を見失った結果、ムダなコストがかさんでいては意味がありません。

急ぐ前に、見落としがないか、導入後に発生しそうなコストや懸念はないかを十分に検討する必要があります。

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仮想通貨まとめ編集部の志水 / 36016 view

鈴木まゆ子

税理士・ライター。


2017年の1年間、仮想通貨は”投機手段”として知られるようになりました。

しかし、本来は国や組織を通さない決済手段です。

そのため、経済や金融で危機を迎えている国々においては、「安全資産」のひとつとして注目されています。

何のバックグラウンドも持たないまま、人々の信用だけで「貨幣としての価値」を認められるようになった仮想通貨。
今後どうなっていくかをじっくり見守りたいと思っています。

こちらのサイトでは、その仮想通貨をめぐる社会情勢や素朴な疑問を中心にお伝えしていきます。


Twitter: mayu_suzu8


この他、ZUU Online, マネーの達人などで税務・会計を中心に解説しております。


2017年11月20日、TOKYO FM「クロノス・プラス」にて、仮想通貨関連について解説いたしました。